2019-01-01から1年間の記事一覧

回り灯篭

雪の降る動物園に行ったことがある。ふたりで抜け出した狭苦しい町、収縮してく。ピアスホール空いた切符握り締め乗り込んだそこは、がたがた蠢く動物の体内のようだった。当時、日の射す時間帯に隣の尖った耳した中学生の彼の姿を認識したのは初めてだった…

赤とクレテック

世の中不思議なもんでどうやら月明かりという言葉が未だ不滅らしい、月が明るいらしい、月を数値化するらしい、明度数値らしい、月を模そうと球に行き着いたらしい、指先に宿る太陽系蹴飛ばしても構わないらしい、グシャリ。その瞳にインク一粒垂らすためな…

黒とエトワール

レイトショーの終演、ステップ踏む帰り道のスパンコール纏う夜は羽根が生えるから背が痛んだ。此処は明るい黒。あの決して此処ではない世界を、此処に溶かし込む。扉は開けない、此処は確か物音を嫌うから。▽スクリーンのなかの彼らは恋だ愛だを唱えたが。わ…

春の夜

歩く。その薄く色づいた砂浜を、歩く。「星の砂って、有孔虫の殻なんだって」永遠性を忌むノノが、どこまでもつづいているみたいに、波に攫われてしまいそうになりながら、歩く。「まあ、実際に砂であるよりかはロマンあるわね」ほら、ねえ、視界が、よるが…

溶存酸素量

彼女はよくここにフラリと現れた。よく見たペンキに浸したような手土産は無かったから、換気せずに済んだ。ただ、いつも踊るような足取りの彼女に、重いグレーのセーラーは似合わない。▽いまでもよく覚えてる、どうにも病弱で、走るのがにがてで、しゃきしゃ…

インブルー

ホワイト・アネモネを押し花にした。進路調査書を出した。空が深くなった。やってきたこの夏も、まだあの日を追い越せずにいる。あの日、青の日。フィンセント・ファン・ゴッホの生み出す貪欲なほどの青を見つけた日。間違いなくあの瞬間、世界じゅうは青に…